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春待ちの木々
「ねぇ、木下さん。日曜日空いてたりする?」
森田くんから声が掛かったのは火曜日のお昼明けのことだった。
「空いてるけど、何かあるの?」
彼は眼鏡のブリッジを押さえて、ニヤリと口角を持ち上げる。
「合コン。K社と」
「K社? え、客先ってこと?」
「そう。今日K社に行ったらさ、事務の子に是非にって言われて」
森田くんは何でもないことのように答えて両腕を組んだ。
「変則的なんだけど男と女二人ずつの、四対四くらいが向こうの希望なんだ。どう? 参加する?」
「森田くんも参加するってこと?」
「当たり前でしょ」
私は眼鏡の顔を見つめる。すぐに返事をしなければきっと別の子に声を掛けにいくだろう。私はその場で頷いた。
「うん。分かった。参加する」
「OK。じゃあとでラインするよ」
彼はそれだけ告げると、ひらりと手を振って去って行った。私は正面に向き直って手帳を開く。仕事の予定しか書かれていないマンスリーは土日の欄がすかすかだ。そんな寂しい日曜日に赤ペンで小さくハートマークを書く。
(森田くん、まだ彼女いないんだ……)
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