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最早コップに注ぐのも煩わしい。そのまま口を付け呷る。そのなんと爽快な事か!
口を離す。空になった鉄の壺を畳に転がす。
もう何をする気力も持ち合わせてはいなかった。
視界が滲む。泣いているのか?
否、否否否!
それは終末への最後の晩餐だった。
◇
目が冷めた。
天は茜を凪ぎ、空は藍で塗られていた。
碌に頭は働かず、三半規管を金槌で常に叩かれている様に吐き気が止まらない。
だのに、視界だけがクリアになっていた。
それに疑問を持つ事は無かった。もう正しく認識行為を行う事も私には不可能なのだろう。自嘲めいた声を上げた――――つもりだったがただ息が漏れるだけに終わった。
終末は近い、己が命の終末が。
何と惨めな終わりだろう。だがそれこそが相応しいのかもしれない。
これまでの蓄積は決して偽りを齎す事は無かった。今のこの状態がそれを確固たるものだと示す証左。
視線を横に向けると、銀色の鉄瓶が映った。
鉄瓶、中に入っていた液体を呑んでいた。そう、それだけ。
何物にもなれない、何者にも認識されない、なにものにも認められない自分は世界に不必要なのだと悟った。
だから呑んだ、水銀を。
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