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衰弱する体の実感は己が生きていることを、茜色の空を見ている事実は己が居る事を、それぞれが証明してくれた。
そして今は、久方ぶりの空の色。紫苑と藍の混ざった空。そして恋焦がれた月。金に彩られたが如き満月が私を無慈悲に見下ろしていた。
その月の無関心が私に向いている。つまりは私の存在を認めてくれている。それが揃っただけで十分だった。
決して長くはなかったこの現世(うつしよ)、そこで絶望と悔恨に沈んでいた私に手向けられた供え物に、満足しない筈がない。
九十九(つづら)に屈折した私の世界は、今この時を以て終わりを迎える。薄ら寒い畳の床に就いて。
体を蝕む銀の鎖がじわりじわりと首を締めあげていくのがわかる。
それでいい、それでこそ私への、そしてあの空に浮かぶ無慈悲な女王への供物となり得よう。
存外に、あれを飲み干す日々は楽しかったのかもしれない。
嘗ては不死の薬の材料とまで言われた銀は、しかして私の命を刈り取る銀鎖となった。
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