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銀鎖の茜は九十九に重なりて床に臥す
最期に蒼天を望んだのは、果たして何時だったであろうか。
その問いに答えを返す者は既に存在せず、水月を掬うが如き行為は何の意味も成さない。今体を骸の様に転がしている六畳一間の世界は、埃と湿気に塗れ宛ら草木生い茂る廃墟の様相を成していた。
頬にできた畳の皺の跡を指で擦りながら、上体を起こす。
窓から差し込むのは茜色の夕日、それが今日も怠惰に寝過ごしたことを証明づける。溜め息はもう枯れた。それに費やすエネルギーは無い、今ここで生存しているだけで己の内にある大部分の気力は削がれているのだから。
などとのたまうのも無駄であろう。だからつまらぬ思案は打ち止めて、のったりとした動きで鉄瓶を傾け液体をコップに注ぐ。眼球に映るそれは茜色の光を反射しきらきらと輝いていた。傾けると軽やかに滑るそれを、一息にぐいと飲み干す。
喉を鳴らす。
コップはすぐさま空になり、宛ら私の心の空虚さを表している様にも感じる。
それを自覚したからなのか、はたまた別の理由でか。
視界は歪み平衡感覚は崩れ、固くも柔くもない畳に倒れ伏す。嗚呼、気分は最悪だ。最悪であるはずなのに、私はくつくつと嗤った。
可笑しくも無いことが可笑しい。
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