背後にはいつも影がある

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背後にはいつも影がある

僕の視線の先は暗い それは物理的な明暗のそれではなく、僕のこの先に続く生の道が暗雲に閉ざされまるで読み取ることが出来ないと言う事だ 別に僕はどこかが致命的に欠落した人間でも欠陥を抱えた人間でもない 人との関わりも特段不得手にはしていない、恙無く平凡だ 何も不足はない、普通で普遍で当たり障りが無い だけど、それでも僕はそれが気に入らない 普通ではない特筆した何かを持つ人が羨ましい 頭脳でも、身体能力でも、記憶力でも、思考力でも 何か一つを持っている人間が酷く酷く羨ましいのだ そして何も持たない僕を、何よりも僕が嫌っていた いっそ劣等感と言ってもいい、何かを持つものに対するその感情を水面下に浸し透けさせて隠してきた僕は、ほんの少しの誰でも出来る努力で教員としての資格を取り、中学校の教師をしている 日々何かを光らせる生徒、未だ眠る何かを持つ生徒と相対し押し潰されそうになりながら生活する僕の今目下の問題は、学校の外にある 一昨年僕が受け持ったクラスを卒業したひとりの女子生徒、彼女が未だ高校に進学もせず働きもせず日がな一日部屋に篭っているのだと言う知らせが耳に入った     
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