9 あまやかしてください

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 車は商店街を走る。本屋。ドラッグストア。八百屋。花屋。色んな店の前を通り過ぎていく。昔からの街並み。下町の人々の温もりが、そこかしこに満ちていた。この中で、桐乃は生きてきた。これからも、生きていく。佐古田は、忙しないオフィスで生きていく。この商店街のような、温かい場所を作るために。その傍らに、いつも彼があってほしい。そしてもちろん、かわいい犬たちも。 「大事にしてくださいね、ご主人さま」  細い腕が助手席から伸びてきて、佐古田の黒髪を撫ぜた。その感覚にうっとりと目を細めながら、これではどちらが飼い主か分からないな、と苦笑した。
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