2 おはなししましょう

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「あらー、逆さまつげですねぇ」  桐乃はヨシユキの顔を両手で挟んで目を覗き込む。もともと大人しい犬ではあるが、人に触れられてこんなに長時間黙っているのは珍しい。それだけ桐乃が手慣れているのか、それとも相性がいいとでも言うのか。 「まつげはそのうち抜けると思うけど、目やにはとってあげてくださいねー。今度うちの店にある洗浄液あげますよぉ。それまではとりあえず、タオルとかガーゼをお湯でぬらして、ぬぐってあげてくださいねぇ。どうしても抜けなかったらピンセットでえいやってするので、連れてきてくださぁい」  ヨシユキの顎の下をこしょこしょとくすぐりながら、淀みなく桐乃が言う。愛犬に大事のないことを知り、佐古田は安堵から大きなため息をついた。それを見てまた桐乃が少し笑う。それがなんとなくむず痒くて、佐古田はテーブルの上のティーカップとソーサーを持ってキッチンへ向かった。客相手に茶も出さない彼ではない。桐乃のカップには紅茶がまだ半分残っていたが、冷めかけていたので構わず下げた。 「夕食を食べていくといい」 「え」     
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