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箸を握り締めて子どもみたいに目をキラキラさせる桐乃を見て、自然と満足げな笑みが漏れてしまう。佐古田が作ったのはなんのことはない和風パスタとかぼちゃのポタージュだけれど、彼はそれをいかにも手間がかかったように飾り付けるのも忘れない。
佐古田にとって食は娯楽だ。手をかけることも厭わないし、ちょっとした遊びだって交えてみせる。佐古田お手製の食事たちを普段はあまり見ない満面の笑みでほおばる姿に、なんとなく満たされた気分になった。
「でも……わかんないなぁ」
カラン、とスプーンを置いてつぶやく。皿の上に固定されたままの視線はどこか物憂げな色をたたえていた。
「分かんないって、何がだ?」
「顔もいいし、こんないい部屋に住んでるってことはお金持ちだし、料理もできるし、やさしいし。こんないい男なのに、なんで世の女性たちは放っておいてるのかなぁって」
佐古田は自嘲ぎみに笑った。親しい女性がいないことは桐乃も知っていることだ。
少し勘繰れば邪推はできようものを。変なところで素直というか意外と擦れてないというか。精一杯皮肉げな笑みを浮かべてやった。
「知らない方が幸せだと思うけどな」
横で行儀よくおすわりしていたヨシユキの耳をかいてやりながら吐き捨てる。なんとなく察したのか、桐乃がはっと息をのんで固まったのが伝わった。佐古田は目を合わせない。ただ穏やかに、気持ち良さそうなヨシユキの目を見ていた。
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