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桐乃に打ち明けるつもりなんてさらさらなかったが、別に隠す気もなかった。彼をそこまで信用しているわけではないが、なんとなく、彼なら知られたところで付き合い方を変えるようなことはしないだろうという気がしていた。
だがそれはただの予感に過ぎない。佐古田は過去幾度も突き付けられた侮蔑の眼差しを思い出す。まるで異物を見るかのような、あの眼差し。――さて、反応は、どうだろうか。
「そっかぁ……。もしかして、ヨシユキってイイ人の名前とか?」
「――俺が勝手に想ってるだけだけどな」
予想以上に察しが良くて少し驚いた。確かにヨシユキというのは佐古田の想い人の名前であった。我ながら趣味が悪いとは自覚しているが、けして成就するはずのない想いだ、このくらいのことは許されてもいいと思ったのだ。
「そっかぁ」
そっか、そっか。何度も確かめるようにうなずく。突然こんなことを打ち明けられたら戸惑うに決まっている。桐乃がなんらかの気持ちの整理をつけるまで、佐古田は「ヨシユキ」と戯れながら待つことにした。しかしそれは然程長い時間ではなかった。
「佐古田さんも、つらいんですねぇ」
独り言のようにポツリとつぶやかれた言葉。つい、と視線を移すと、なにやら自分の鞄を漁っているようだった。やがて取り出したのはなんのことはない携帯電話で、そのまま佐古田に画面を見せ付けてくる。
「見てコレ。ちょーかわいくないですかぁ?」
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