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もふもふ、ほかほか。くすぐったそうに身を捩りながらも、前足で髪にじゃれついてくる。その愛らしい仕草に、佐古田は昇天寸前だ。
犬は素晴らしい。人間のよきパートナー。なぜ今までこの魅力に気づかなかったのかと、数ヶ月前までの自分を心底軽蔑する。
「そのポメ最近歯ぁ生えてきたんでー、気をつけてくださいねぇ」
寝ぼけているのかとツッコミたくなるような間延びした声で言われるが、既に指数本を甘噛みされながらもデレデレとしている佐古田には無駄なことだった。それを横目で見た店主は笑っているのか真顔なのか分からない表情で溜息をつく。
「しかしまぁ、本当に見事に犬好きになりましたよねぇ」
この妙に間延びした店主。名前を大窪桐乃という。変わった名前であるが、変わっているのは名前だけでない。見た目から中身から、何もかもが佐古田の周囲にはいない感じの、否、なかなかそこらにはいない人種の人間だった。
「二十代後半の男が犬好きじゃおかしいのか」
「別にそんなこと言ってないじゃないですかぁ。むしろこんなイケメンリーマンが愛犬家とかぁ、ギャップもえー、みたいな」
佐古田の手からポメラニアンを受け取って、その前足をふよふよさせながら「怒っちゃイヤだわんー」なんてけたけた笑っている。
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