1 ひろってください

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 本当におちゃらけた男だ。明るいブラウンの頭に紫のヘアピンを幾つも刺し、露わになった両耳にこれでもかというほど色とりどりのリングをぶらさげているような、いわゆる『チャラい若者』然とした外見と中身のそぐわなさがまた奇妙だ。 「そういうアンタはいくつなんだ。いい年こいた男が犬語は恥ずかしくないのか」 「えー? とおのは永遠の少年なんだわん」  ポメラニアンの後頭部に頬を埋めてにんまり笑う。とろんとした垂れ目がどことなく柴犬の呑気な顔つきを連想させた。 「……まぁ。いい。会計してくれ」  佐古田の差し出した一万円札を受け取った桐乃は黙っていても笑んでいる顔を更にくしゃりとさせて、猫なで声で「ありがとうございまぁす」と一言。人を馬鹿にしているとしか思えない。これで接客業なんてしているのだから嘘のようだ。 「じゃあ、また来る」  釣銭を受け取り踵を返す。見送りのつもりかキュウンと鳴いたポメラニアンに後ろ髪を引かれつつも一歩外へ踏み出せば、すかさず寒風が吹き付けて、佐古田の上等なコートをはためかせた。 「またのおこしをー」  視線だけで振り返ると、例の変人がドアから半分だけ顔を出してニマニマとしていた。とにもかくにも佐古田にとっては不思議で理解不能な人種だ。それでも不愉快に思わないところがまた奇妙である。     
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