454人が本棚に入れています
本棚に追加
元々とはこんな奇妙な男とも市井のペットショップとも、そして動物とも縁のなかった佐古田が今このような状態に在るのは、二か月ほど前の事件に由来する。
太平洋側にあるこの街では珍しく、粉雪がはらはらと舞う日だった。
その日佐古田は、抱えている仕事が思うように進まずとても苛立っていた。
いつも余裕溢れる紳士でいたい佐古田としては、このささくれだった気分をどうにかしたかった。
そういう時彼は電車を使う。幼い頃から二十代も終盤の今に至るまで、都会に住んでいながら彼が電車を使うことは少なかった。幼い頃は家人の送り迎えがあったし、就職してすぐに自家用車を購入したため、今では遠出するときに新幹線を使うくらいだ。普段は使わない電車にゆっくりと揺られること。普段と違う時間、すなわち非日常を過ごすことこそが、自分の心身をなだめてくれることを佐古田は知っていた。
そこで普段は寄り付きもしない職場の最寄り駅へと向かっていた。この街にしては珍しいことにその日は雪が降っていて、それもまた佐古田の気分を少なからず慰めた。肌触りの良いアイボリーのマフラーに顔を埋めて、肩を竦めて街を歩く。普段は車でさあっと通り過ぎてしまう道を、寒い寒いと震えながらも必要以上にゆっくりと歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!