454人が本棚に入れています
本棚に追加
十分ほど歩いたところで、ふと温かい缶コーヒーが恋しくなった。コートのポケットに突っ込んでいるとはいえ、さすがに指先が冷たくなってきたのだ。幸い自動販売機はすぐに見つかった。あまり町中では見かけない佐古田お気に入りのメーカーのものもあり、これまた小さな喜びを感じなが財布を取り出した、そのときだった。
自販機の陰に隠れていた何か小さいものが飛び出してきて、佐古田の脚にまとわりついた。
驚いて思わず一歩後ずさると、それは一匹の子犬だった。片手に乗りそうなほど小さくて、黒の毛並みを雪に濡らしている。大きな黒い目で佐古田をまっすぐに見上げ、震える声でくぅんと鳴いた。
野良犬だろうか。しかしこのような子犬。どうしたものかと思っている間にも、子犬はまた佐古田の脚にまとわりつく。寒いのか、顔をすりつけてきゅんきゅんと鳴いた。けして安くはないスーツの裾が濡れたが、それを気にするほど佐古田は器の小さい人間ではなかった。そしてそれ以上に、彼の身には異常事態が起こっていた。
(な、なんだこの破壊的可愛さは!)
佐古田はそれまで動物を飼ったことがなかった。別に好きでも嫌いでもなかったというところか。しかし今、彼の脚にすり寄って甘えた声を出す生物の、なんと愛くるしく保護欲を駆り立てことか。くりんと丸い黒目、ひくひくとせわしなく動く小ぶりの鼻、ぴんっと立った三角の耳、ほてっと佐古田の手の甲に載せられた前足の小ささ、ふんわりと膨らんだ巻き尻尾。なんという破壊兵器だ。
最初のコメントを投稿しよう!