1 ひろってください

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 気づけば佐古田はその凶悪破壊兵器を大事に腕の中に抱え、目についたペットショップに飛び込んでいた。 「いらっしゃいませー」  それは小さく粗末な店だった。薄暗い店内にケージや水槽がみっちりと積まれて窮屈そうだが、動物たちはのんびりとした表情でまどろんでいる。正面のケージでうとうとしていた子犬に目を奪われて一瞬意識が遠くなるが、すぐ真横から掛けられた声で正気に戻る。 「あらぁ~、かわいい柴ちゃんですねぇ」  いつの間に接近したのか、驚くほど近距離に男が立っていた。明るい色の髪を妙にうねらせてひょろりとした今時の若者、それもちょっと浮ついた感じだ。そんな男が眠たそうな目を細めて、佐古田の腕の中の子犬を見ていた。  男の言った『シバ』という単語が佐古田の中で『柴犬』と結びつくまでに数秒がかかったが、そこにたどり着いたとき彼の中に何やら納得できない疑問がよぎる。 「柴犬ってのは茶色じゃないのか。こいつ黒いぞ」 「ええ~、黒い柴ちゃんもいますよぉ」  ねー、と子犬に話しかけて首をかしげる。つられたのか、子犬も短い首を右に捻った。その仕草にまた気の遠くなる佐古田だが、今はこの可愛さに悩殺されている場合ではない。 「ていうか、お兄さんの犬じゃないんですかぁ?」 「ああ、捨て犬か野良犬だ」     
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