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ところで距離が近すぎやしないか。エプロンをつけているからこの店の店員なのだろうが、客との距離感覚がおかしい。少しずつ佐古田は後ずさるが、その分店員が近寄ってくるので結局は佐古田が壁際に追い詰められるだけだった。
「あららぁ、かわいそうにー」
きゅんきゅんと細い声で泣く子犬の頭を撫でながら、目線だけをきょろっと佐古田に合わせてきた。黒目がちの垂れ目に近距離から見据えられて、なんとなくドキッとしてしまう。
「で、お兄さんが飼うんですか? この子」
「え」
佐古田としては、とにかく子犬を保護してくれるところを探していた。商店街ということもあって目の前にペットショップがあったから飛び込んだに過ぎないのだ。まさか自分が飼うだなんだという話になるとは思ってみなかった。しかし、よく考えれば別に不都合もない。佐古田のマンションは意図せずともペット可の物件だったし、一人暮らしであるので誰の許可がいるでもない。経済的にも困窮はしていないし、何より子犬が破壊的なまでに可愛い。
「そ、そうだな……ううん……」
しかし犬はおろか、今まで動物を飼ったことはない。こんな安易に連れ帰っていいものだろうか。煮え切らない返事をする佐古田の顔を、大きな目と垂れ目の目、合計四つの目がじいっと見つめている。
「柴もわからなかったくらいだから、お兄さん犬飼うのはじめてですよね?」
「あ? ああ……」
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