1 ひろってください

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 察しがよくて助かる。ならばここで引き取ってくれるのだろうか。寂しい気もするが、子犬のためにもそれが良いに違いない。そう思っていると、店員は突然ぱんっと手を叩いた。その音に反応したのか、子犬の耳が外側にくりんと回転する。 「じゃあ俺が、飼い方指導してあげますよぉ」  にっこにっこと笑顔で言われた言葉の意味を、すぐには把握できなかった。それはつまり、結局佐古田が飼うという選択肢なのだろうか。 「ううん、すぐってわけにはいかないからしばらくは俺があずかりますねぇ」  言って、佐古田の手から子犬を受け取るとカウンターに立たせ、すぐに毛布で包みこんだ。子犬は暖かそうに目を細めている。そこで初めて、佐古田は自分のコートが冷たかったことに気づいた。 「犬を迎えるにはそれなりの準備がいるんですよ」  そう言って店の入り口付近に据えてある本棚から一冊の本を抜いて差し出した。それは犬の飼い方に関するマニュアル本で、表紙には可愛らしい子犬の写真がふんだんに使われていた。 「とりあえずはぁ、この本の最初の章を見ながらお部屋を色々ととのえてくださいねぇ。ケージとかエサ入れとかはこちらで用意しときますんで」     
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