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今更「引き取らない」とは言えない雰囲気だ。佐古田も子犬との生活に頭が向かってしまっている。本を受け取った手にぐっと力を込め、気持ちを固めた。いつも余裕溢れる紳士でいたい佐古田薫としては、犬の飼い方ひとつでもおろそかにするつもりはない。飼うと決めたならば、どこまでも徹底的に。
「なんか気になることあったら、お店に電話ください。俺、いつでも店にいるんでぇ」
そう言ってレジの横のメモパッドに店の番号をさらさらとメモし、佐古田に手渡す。口調と目元はとてもとてものんびりだが、意外と動作が手早い。
「あ、俺大窪桐乃って言いますー。一応ここの、てんちょーさん」
へらっと笑いながら言われた言葉を信じられなかった。この、いかにも最近の若者といった感じの男が、このペットショップの経営者だというのだろうか。世の中分からないものである。
「あ、信じてないだろーぷんぷん!」
「……」
そんな経緯で佐古田薫は生まれて初めて子犬を飼うことになった。
初めは大変なことばかりであった。まずは桐乃の言う通りに本を読みながら部屋を整えることから始まった。低いところに置いていたものをクローゼットや棚の上に移動させ、コンセントをテープで固定し、ケージを置くための場所を確保して。
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