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1 ひろってください
金曜日午後六時。
世の多くの働く男が仲間と連れだって飲みに行ったり家族との団欒を楽しむために帰路を急ぐ中、例に洩れず働く男である佐古田薫はその店を訪れる。
「いらっしゃーい」
『ペットストアおおくぼ』。両隣に隣接する建物に圧迫されたように建っていて、看板も色褪せかけた小さく古い店だ。やや立て付けの悪いガラス戸を開ければ、顔を動かさずとも店内を一望することができる。そのくらいの規模である。
ギギ、と軋んだ音をたててドアが開かれると、小さな住民たちの目が一斉にこちらに向いた。定番の犬猫に、鳥、ハムスター、リス、熱帯魚、カメ。多種多様な生態系が、特に劣悪でも快適でもない適度な環境で共生していた。
「いつもの」
高級ブランドものの鞄の中から取り出したのはヨレヨレになった紙袋。それもかなり大きい。それをぽんとレジカウンターに投げてやると、趣味を疑う真紫のエプロンをした店主が受け取り、店内の棚から次々に商品を取り出しては袋に詰めた。
その間に佐古田は勝手に子犬のケージを開けてふわふわのポメラニアンを腕に抱いた。
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