サンキチ~既知外者(きちがいしゃ)の流儀~

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“パーン”と乾いた音が教室内に響き渡り、叩かれた、ようこの目が少しだけ開かれる。 先程の穏やかな目ではない。まるで獲物を見つけた肉食獣だ。 しずかが幼い時に、動物園で見た豹やライオンの目に似ている。 うすら寒い怖気が、全身に纏わりつく。 「いい加減にしてよ!」 沸き起こる恐怖の感情から逃れるためには、大声を張り上げるしかなかった。椅子を立ち、 クラスメイト達の非難を一身に受けながら、走りだす。 その姿を見送る、ようこは、周りの生徒の心配の声に笑顔で頷きながら、 しずかに叩かれた頬に触れ、感触を楽しんだ後、静かに呟いた。 「美味しそう…」 …  教室を飛び出した後、そのまま学校を出たしずかは、自室に飛び込んだ。膝を抱えて、 ベッドに蹲る。ドアに鍵をかける事を忘れてはいない。両親は仕事で2人とも 他県に出張中。 あやかの件もあり、娘を心配したメールは来ていたが、返信する気力はない。 今は、自分の身は自分で守るしかない。警察に行く?一瞬考え、被りを振る。 駄目だ…今はきっと模倣犯のような電話や、しずかのように自分が友喰いで 食べられるといった連絡は山ほど来ているに違いない。適当に諭されて帰されるのが 関の山。 だが、確信がある。ようこは間違いなく、自分を“友喰い”に来る。 あの目は肉食獣の眼だ。現にようこは人を食っている。二人の女学生、そして親友のあやか。 これは、今や、誰もが知っている事実だ。 最悪の展開を考え、怯えるしずかは室内が暗くなっている事に気づく。 カーテンを締め、明かりを付けよう。少しでも気分を明るくしたい。 顔を上げた視線が、窓にくぎ付けとなる。 いつからそこにいたのだろう。窓に外に逆さまのようこがいた… いや、張り付いていると言った方がいいのかもしれない。
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