サンキチ~既知外者(きちがいしゃ)の流儀~

2/20
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
始めに… 既成の概念、人々が既に知っている常識を“既知”として定義するなら、 それを外れた概念、新しく、未知的なモノは“既知外”として表せる… 「これで後1人…」 呟く少女は、清潔な白で覆われた壁に一筋の“朱”が混じっている事に気づく。 マンションの一室、明かりを消した部屋にはカーテンから入った月明かりが反射し “汚点”をクッキリと映し出している“少女”は軽いため息をついた。 (せっかくの良い夜なのに、台無し… “撮影前”には綺麗にしないとな、血が乾くと、後が面倒だもん。) そう思うが、体は“食欲”に突き動かされていく。自身の腕に抱き留められる “同年代の少女”だった者を眺め下す。勿論、彼女の心臓は動いていない。 綺麗に整った首筋は先程、自分が舐め尽くし、食いちぎった後が空洞のようになっている。 薄く笑い、愛おしそうに、そこを撫でまわした後、顔を埋めた。お決まりの“小唄”を 歌う事も忘れない。 「貴方の事がだ~い好き~。好~きで好~きでたまらな~い。だ~から、食べよう。 そ~しよう~。み~んな一緒のと~もぐ~い(友喰い)」 暗い室内に甘い少女の音色と肉を貪る“咀嚼音”が響き渡った…  (感じの良い夜だな。) 俺事“サンキチ”(本名ではなく、周りからそう呼ばれているだけだ。) は笑い、自身のとんがり歯を軋ませた。今にも崩れそうな着古しコートは、 春先が終わったら、替えどきだが、買う金がない。 勿論、今乗っている“仕事帰りの社会人満載”の終電に支払う電車賃もない。 だが、駅近くのゴミ置き場で漁った“残り酒”が程よい快楽を与えてくれていた。 きっと俺の頭は、終着駅で降りるまでに美味い方法を考え出すだろう。 「止めて下さい。」 ふいに、俺より少し離れた人の群れから声が上がる。ちょっとボロ靴の踵を 浮かしてみれば、声の主は、つり革に?まった若い女性だ。 問題なのは、その前で顔を真っ赤にしている男。相当酔っているご様子… スーツはヨレヨレ、ネクタイは宙ぶらりん。この時期と言えば送別会か? どっちにしても“タチ”が悪そうだ。 「あ、すいません、すいません。えへへへへ…」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!