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始めに…
既成の概念、人々が既に知っている常識を“既知”として定義するなら、
それを外れた概念、新しく、未知的なモノは“既知外”として表せる…
「これで後1人…」
呟く少女は、清潔な白で覆われた壁に一筋の“朱”が混じっている事に気づく。
マンションの一室、明かりを消した部屋にはカーテンから入った月明かりが反射し
“汚点”をクッキリと映し出している“少女”は軽いため息をついた。
(せっかくの良い夜なのに、台無し…
“撮影前”には綺麗にしないとな、血が乾くと、後が面倒だもん。)
そう思うが、体は“食欲”に突き動かされていく。自身の腕に抱き留められる
“同年代の少女”だった者を眺め下す。勿論、彼女の心臓は動いていない。
綺麗に整った首筋は先程、自分が舐め尽くし、食いちぎった後が空洞のようになっている。
薄く笑い、愛おしそうに、そこを撫でまわした後、顔を埋めた。お決まりの“小唄”を
歌う事も忘れない。
「貴方の事がだ~い好き~。好~きで好~きでたまらな~い。だ~から、食べよう。
そ~しよう~。み~んな一緒のと~もぐ~い(友喰い)」
暗い室内に甘い少女の音色と肉を貪る“咀嚼音”が響き渡った…
(感じの良い夜だな。)
俺事“サンキチ”(本名ではなく、周りからそう呼ばれているだけだ。)
は笑い、自身のとんがり歯を軋ませた。今にも崩れそうな着古しコートは、
春先が終わったら、替えどきだが、買う金がない。
勿論、今乗っている“仕事帰りの社会人満載”の終電に支払う電車賃もない。
だが、駅近くのゴミ置き場で漁った“残り酒”が程よい快楽を与えてくれていた。
きっと俺の頭は、終着駅で降りるまでに美味い方法を考え出すだろう。
「止めて下さい。」
ふいに、俺より少し離れた人の群れから声が上がる。ちょっとボロ靴の踵を
浮かしてみれば、声の主は、つり革に?まった若い女性だ。
問題なのは、その前で顔を真っ赤にしている男。相当酔っているご様子…
スーツはヨレヨレ、ネクタイは宙ぶらりん。この時期と言えば送別会か?
どっちにしても“タチ”が悪そうだ。
「あ、すいません、すいません。えへへへへ…」
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