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まだ若い年頃の彼は、そこだけはキチッと謝りながら、嫌がる女性に手を伸ばす。
どうやら、混雑に挟まれ、身動きも、逃げる事もできない彼女を触っているらしい。
まぁ、そりゃ確かに遠目から見ても“辛抱たまらん”な容姿と肢体の持ち主だけどな。
「いい加減にしないか。」
「そうよ。貴方!可笑しいわよ。誰か駅員さんを!」
若い女性の後ろにいた中年の男性と女性が交互に注意し、彼女を後ろの列に移動させようとする。二人のご立派な姿勢に、そこから先は“誰かが続けば我も我も”な
日本人のお決まり。
「そうだ、そうだ!」
「やめろ!やめろ!」
と野次馬より陰湿なお国柄が見え始めた。
“もっと最初に声をかければいいじゃん。それも自分で!”と思うのは俺だけかな?
まぁ、そこまではいいよ。だけど最近の社会人は不満を溜めに溜め込んでいるからな。
「ふぐっ!」
若い女性がうめき声を上げて、崩れ落ちた。慌てて、後ろの何人かが抑えるが、
酔っ払い男が無言で繰り出す拳に躊躇する。
「オイッ!いい加減に…」
先程の中年が声を荒げるが、その顔面に男の拳が決まった。
「ウルセェッ!アホ共。邪魔すんな!“友喰い”なんてもんが流行る時代だ。
(流行りの言葉らしいが“既知外(キチガイ)”の自分にわかる筈もない)
可笑しな事だらけじゃねぇか?俺の何がいけねぇ?ぶっ殺すぞ。殺す。殺す。
殺してやるぅぅ(目が逝っちまってんよ、にいちゃん…)
女を動かすんじゃねぇ。動かした奴は殴る。殴る。殴るぞぉっ!」
自分の鬱憤を“これでもか”と吐き出し、叫び続ける男。
そのまま混み合い、身動きのとれない車内で、拳を振り回していく。
乗客達はオロオロ、ブツブツ何かを呟き、
被害を受けている女性は腹を抑えて泣き崩れ、他の奴等は巻き添えをくわないように、
彼女から少しでも遠ざかろうと体を動かしている奴までいる始末…
全く、萎縮された国民性は考えもんだな?仕事とネットでは、いくらでも
偉そうになれるのに、
いざ、目の前で暴力とか“見慣れないモノ”に出くわすと肩を寄せ合って
震えるしかできない。
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