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最初は厳かな、途中からは、まるでアイドルみたいにはしゃいだ彼女が、
フォークとナイフを上手に使い、食事を開始する。
調味料も、焼きも、揚げもしない“生”の柏葉あやかを“食”していく。
鈴木はハンカチを口で抑え、目の前で繰り広げられる“食人行為”を戦線恐々の面持ちで
視聴した。勿論、映像に一切のモザイクはかからない。
最後にあやかの指を一本、一本切り分け、まるで“フライドポテト”を食べるような感覚で呑み込んだ彼女は、コース料理を食べた後のマナーも忘れずにとばかりに口を拭い、
こちらに向かって微笑み、呟いた。
「ごちそう様」
映像が切れるや否や、鈴木はトイレに猛烈な勢いで駆け込んだ…
“友喰い”この事件がまことしやかに囁かれ、今や、ネット、世間に“正当な行為”で
まかり通り始めたのは数週間前の事だ。具体的な内容としては…
“食愛”“食べ友”をキャッチコピーとし、人々の間で流行する食人行為。
食べるのは恋人、家族、親友。(この親友のケースが多いため“友喰い”と呼ばれる。)
双方の合意の元で行われるとして、食べられる方は、食べる側に法的被害が
かからない宣誓書を書き、ネットやSNSで自分が食べられる様子を配信する場合が多い。
非人道的な食人を神聖な“儀式のように見せる工夫”が施されており、
批判も多いが、先が見えない困窮社会における、“究極の愛の形”として
若い世代を中心に広がり始めている。メディアやテレビはここぞとばかりに
無責任な宣伝、喚起を促し、捕まった“友喰い”の1人が未成年かつ、精神鑑定の結果、
無罪になるにいたり、この行為自体が“合法化”の兆しを見せ始めていた…
今までの経緯を回想し、鈴木は悪態をつきたくなる。
全く、馬鹿げた話だが、現にそうなっているのだから、仕方がない。今見た動画は日本も
含め、既に世界中で2億人もの人間が見ている。
今の映像を観て、何とも思わない連中が、あまつさえ、友喰いを肯定する連中が
それだけいるのだ。“イカレテル”としか言いようがない。
誰もが刺激的なモノを求め、それが頂点に来ている。だから、それが可笑しいとは思わない。
皆が見ているから、2億人が見ているから、これは正しい行いなのだ。
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