サンキチ~既知外者(きちがいしゃ)の流儀~

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「世の中ってのは、100人の内、99人が正しいって言えば、それが当たり前の モノになっちまう。  仕方のない事なんだよ。だけど、絶対に可笑しいって言う1人がいるからこそ、 世の中は保たれてる。そんな気がする。 最も、そういう奴等は御多分にもれず、世間の外れ者だがね。」 この事件の担当になった時、鈴木はそう言って同僚や部下達、自分自身を慰めた。 勿論、鈴木自身も、彼等も“外れ者”になる気はない。だから、ここに留まっているのだ。しかし、それにしたって… (本当に馬鹿げている) 鈴木はトイレの洗面所で本日2度目の悪態をつく。 逮捕され、釈放された犯人の名前は“綾瀬ようこ”(あやせ ようこ)高校2年生。 恐らく先程の動画の“友喰い者”も彼女だ。今回も含めれば3人は食っている。 わかっているのに逮捕が出来ない。対策本部が設けられているのは“建前”だ。 今や、国会でも審議されている“友喰い”に対し、“合法”、“違法”どっちに転んでも 面子が立つようにとの上層部の判断… 鈴木達は“お飾り”であり、捜査に関しては“一応動いていますというパフォーマンス”を しろというお達しだ。この内示を聞いた時、部下の“小沢”刑事は 「ふさけるな!」 と叫んで、鈴木の静止を振り切り、署を飛び出していった。将来がある刑事だ。辞めなければいいが… そう考えていると、トイレに、件の“小沢”が入ってきた。 昨日と変わっていないスーツはボロボロ、ネクタイは 結んではいるがクシャクシャ、酒の匂いもヒドイ。オマケに首には赤い腫れ後まである。 鈴木が何か言う前に、小沢が“しまった”という表情を作る。捜査本部に入る前に、せめて服装だけでもと思ったのだろうが、後の祭りだ。 「どうした?ヒドイなりだぞ?」 こちらの声音に叱責が含まれていない事に少し“ホッ”とした表情で小沢が喋り出す。 「実は昨日電車で…」 それから続く内容に鈴木はもう一度悪態をつきたい衝動に駆られた…
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