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唯ちゃんはグラウンドで練習中のイケメンを食い入るように見つめる。きもい。
仕方ない。
「ぎゃっ!」
吾輩は唯ちゃんの頭の上を踏み台にして、フェンスを飛び越える。
そしてイケメンに向かって突進する。えい、ままよ!
「ルートヴィッヒ!」
吾輩はイケメンの胸に飛び込む。
「うわっ!」
イケメンは慌てて吾輩の身体をキャッチする。
間近で見るとまぁあの唯ちゃんが泥を落としたくなるのもわかる。日焼けした肌が眩しい、彼女の秘密のコレクションに出てくる王子様の様だ。
「す、すみません! その猫、私の飼い猫なんです!」
唯ちゃんは履き慣れないハイヒールでグラウンドに駆け出す。
「馬鹿! ルートヴィッヒ!」
馬鹿はお前だ! 何でルートヴィッヒって言っちゃうの? ルーちゃんとでも呼んどけよ!
「全然良いよ。家からついてきたの」
イケメンは爽やかに抱いていた吾輩を返す。
「そうみたいです。ご迷惑をお掛けしました!」
唯ちゃんは頭を下げる。
「いいよいいよ」
イケメンは陽気に微笑む。性格もいいらしい。
「ありがとうございます……」
唯ちゃんは一丁前に照れながら自分の髪を撫でる。
イケメンはふと、唯ちゃんの鞄に揺れる物体に気付く。
「ん? そのキーホルダー……」
唯ちゃんと吾輩は蒼白になる。
終わった。何でそんなの付けてるんだ。同人イベントで買ったボーイがラブする漫画のキャラのキーホルダーじゃないか。
唯ちゃんの顔は案の定色を喪っている。
もういい今日は好きなだけ吾輩の胸で泣け。
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