春を待つ

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三月の初め頃、日の光は暖かくなるが風は強い。私はその季節の灰色の山が好きだ。雪は解け緑が萌える直前の、春を待つ山が好きだ。  一葉もまとわない無数の枝は遠くから見ると産毛のようで、山は柔らかな毛をまとう動物が眠っている様に見える。  新芽が開いた春の若葉たちの美しさ、涼しさを感じさせる夏の山の碧さ、散る前に最後まで燃える紅葉、荘厳な雪景色とは違う美しさがあるのだ。  春を待つ山の美しさは、冬の寒さに耐え、次の春に向け力を黙々と蓄えている山の姿、木の芽がふっくらと膨らみ始め生命を感じさせるところにある。  冬の木はすっかり葉を落してしまって裸になり死んでいるように静かだ。その姿からは春にまた葉を着けることなど想像できないが、時期が来れば必ず葉をつける。私はその生命力を冬の山では見つけることができないが、春が近づくと感じることができる気がするのだ。  その生命が溢れる直前の姿に、耐えることの意味を教わるような気がして私は救われるのだ。
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