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あくまのくすり
悪魔の薬がある。
一粒飲めば、たちどころに眠りに落ち、
そして自分が思ったとおりの夢を見られる薬である。
もちろん夢の中では、それが夢だとは分からない。
つまり、理想の人生を体験できる薬。
一人の男がこの薬を悪魔から手渡される。
彼は毎晩、薬を服用。
夜毎、夢の世界で思うがままの人生を生きる。
ある夜は大富豪、ある夜は芸能人、
ある夜はスポーツ選手、ある夜はハーレムを味わう。
男はあっという間に薬の虜。
「夢の世界に比べて、現実の世界の何と下らないことか。」
次第に彼は現実の世界では、
仕事にも行かず、家族とも口を聞かなくなる。
夢の薬は、悪魔の薬。
もちろん重大な副作用。
飲めば飲むほど寿命が縮む。
しかし、男は薬を止められない。
繰り返される夜の饗宴の味が忘れられない。
会社を辞め、家族にも見放され、
余命短い男の手元には、ただ悪魔の薬があるばかり。
そして、ついにその薬も残り一粒。
男は考える。
どんな夢を見よう。
金か、女か、それとも理想の家族か?
嫌だ、そんな一時の淡い夢など見飽きてしまった。
「ああ、そうか。
悪魔の薬を手渡される夢を見ればいい。
そうすれば、夢の中で延々と夢を見続けられる。
理想の人生をまた何度も繰り返すことが出来る。」
男はこれ以上の名案はないと最後の薬を口の中へ。
ごくり。
薬が喉元を過ぎる瞬間、
男はふと考える。
果たしてこれは現実か?
もしかして、今の自分はすでに現実の自分が見ている
夢ではなかろうか。
現実の自分が最後の薬で、薬瓶を手渡された男の夢を
見ているのではないか。
そういえば薬を手渡した悪魔の顔は、
自分と同じ顔をしてはいなかっただろうか。
そして、男は今日も夢を見る。
おしまい。
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