交差点のレジ袋

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交差点のレジ袋

 交差点近くのカフェで休憩している時、交差点の真ん中にコンビニのレジ袋が落ちているのが見えた。  どこかから風に飛ばされてでみきたのだろう。レジ袋は、車が走る際の空気の流れに乗り、前進と後退を繰り返して交差点の真ん中に留まっている。  拾って片づけようにも、交差点は横断歩道のないタイプのものだから、徒歩では車の流れが激しくて近寄ることなどできそうにない。  風でも吹いて、自然にどこかへ流れていくのを待つしかないのだろう。  そんなことをぼんやり考えていたら、信号機の色が変わり、今まで停まっていた側の車が走り出した。  惨事はその直後に起きた。  先頭の車が唐突にスピンし、交差点の真ん中で停車する。そこへ後続車が次々押し寄せてぶつかる。  交差点内はたちまち阿鼻叫喚の地獄図となり、程なく、誰かが呼んだ救急車が何台も駆けつけ、さらにはそれ以上のパトカーも駆けつける大規模事故現場となった。  その一部始終を見ていたからこそ、俺には、先頭車両がスピンした原因が判っていた。  タイヤがたまたま落ちていたレジ袋に乗り、滑った。…他に目撃者がいたら、ほとんどの人間がそう答えるだろう。でも、俺は見たんだ。  タイヤが袋を踏みつける寸前、レジ袋から人の手のようなものが出てきて、その手がタイヤに触れ、車の軌道を変化させた。そのせいで車はスピンし、横向きになったところへ後続車が押し寄せた…。  続々と玉突き事故が起き、車に隠れて見えなくなってしまったけれど、ある程度周辺が勝たされた時にはもう、あのレジ袋はどこにも存在していなかった。  誰かがゴミとして片づけたのかもしれない。でもそうじゃなくて、もしあのレジ袋が、風に流されるなりしてどこかへ漂っていったのだとしたら…。  あれ以来、ニュースなどで大規模と呼ばれる交通事事故が起きたことを知ると、俺はその映像の中に、よれよれのレジ袋が映っていないか探すようになってしまった。  そんなことをしてどうなる訳でもないのは判っている。それでも俺は、あれから数年が経過した今でも、あの時レジ袋の中には何がいたのか、それを確認したい気持ちでいっぱいのままだ。 交差点のレジ袋…完
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