「失策」

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政虎の強襲があった頃相変わらず勘助軍は上杉軍相手に大立ち回り。徐々に本陣目掛けて突き進んでいた。 「ぬがっ!」 勘助自身も何人切って何太刀切られたか分からぬ程の手傷を受けようとも勘助は止まらない。 「勝てる!あと僅か!あと僅かで我が方の勝ちじゃ!」 ただそれだけを信じ槍を振るう勘助に勇猛果敢な越後兵が完全に呑まれている。 「どうした!どうした!かかってまい...」 バンッ! 喧騒極まりない戦場に轟く破裂音!田舎雑兵などあまりの音に一瞬身をすくめるほどの爆音! 勘助の耳にその音が届くと同時に下半身に力が入らない。 鎧の下にぬるりとした生暖かさを感じる。 謎の音におののく雑踏の中に筒状の鉄を持つ怪しげな兵 彼は軒猿 越後の影である。 彼の手にする武器は最新兵器 種子島! まだこの時日ノ本には伝来したばかりで大変高級な武器であり 本場の九州以外では戦術すら確立されていない代物。 しかしこの軒猿 日本で種子島を扱うきな臭き寺社 根来寺からの流者。 勘助もその存在は知っていたが撃たれた体験するのは始めてだ。 「殿っ!」 撃ち抜かれ倒れ伏す主人を助けるべく数人の侍が守りに入る。 止めどなく溢れる血 遠のく意識 鋭利な頭脳は完全に止まった。 死 その影が勘助を包み込む。 彼岸を彷徨う勘助の薄ゆく視界に飛び込んでくるものあり。 「御館様ー!!」 先鋒は真紅の虎軍団 飯富虎昌! 「勘助ー!待たせたぁ!我らの敵は残っておるかぁ!!」 風の如き速さで敵に三途の川への渡し賃をばらまく 真田幸隆の六文銭! 他にも次々と孫子の旗が山より降りてくる。遂に別働隊が下山し上杉に襲い掛かった! 「おぉ...来た!これで我らの勝ちじゃあ!!」 血の足りぬ体に力が漲る。しかし時すでに遅し 自らを盾に主君を守った侍達はみな討たれ鉛玉に貫かれた勘助は足軽達に囲まれている。 「いっせいにかかれっ!」 ドスッ ズブッ ガスッ! 四方八方から差し込まれる槍 されど勘助は高々と笑う。 「これで武田の勝ちじゃあ!!あの強い上杉に勝ったのじゃあ!!儂の軍略で!この儂の!軍略で!!」 「覚悟っ!」 「儂のっ...」 勘助が言い終わらぬうちに背後からの白刃が首に滑り込み彼の戦塵にまみれた生涯は呆気なく終わりを告げた。 山本 勘助 晴幸 享年61 己の集大成たる戦 第四次川中島で壮絶に散る。
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