「失策」

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永禄4年9月10日 申の刻(午後4時頃)早朝から始まった合戦は終結し八幡原にはいつもの静けさが戻っていた。 戦後処理に追われる武田軍 首脳陣の陣幕には部下が命懸けで取り返した武田信繁 諸角虎定の首と胴体が武田菱の布に包まれ丁重に扱われていた。 「信繁...」 父の追放から真摯に兄に仕えてきた信繁の死に信玄は静かに涙し自ら経を唱え武田のために散った弟を供養した。 戦の結果としては序盤は策を読まれ劣勢に追い込まれるも信繁 虎定 そして勘助の死力を尽くした時間稼ぎによって持ち堪え別働隊が到着した終盤は武田が圧倒した。 しかし上杉も別働隊が来るとこれまでの苛烈な攻めが嘘のようにさっさと退却を始めるという不可解さ。 例の突撃の後に自陣に戻った政虎は宇佐美に退却を命じた。 「宿敵にも会えた 面白き策を味わいそれを見破った 酒も飲んだし 春嵐との遠乗りも出来た。もう満足じゃ帰るぞ」 まるで物見遊山に来たかのような口振りで越後に帰る上杉政虎 つくづく変人である。 そんな政虎とは対照的に重臣の死に沈む武田家中。 そこに満身創痍の透波がボロの陣羽織に包まれた首を一つ持ち帰る。 「山本勘助殿に御座いまする...体の方は見つかりませなんだ...」 涙ながらに報告する透波 信玄はこの透波を手厚くもてなし異形の軍師の首と再会する。 、 「此奴...笑っておるわ!」 いつも苦虫を噛み潰したような顔で屋敷をうろつく老人とは思えないほどの満面の笑み。 「ガハハッ!奴め今頃 亡者を率いてあの世の鬼相手に戦の一つでも仕掛けておるに違いない!そして勝ってこの世に帰って来そうなほど生気に満ちておるわ!」 真田の冗談に皆も笑い 陣幕の中にあの霧のようにかかっていた暗い雰囲気は消し飛んだ。 「皆の者...此度の戦は我らは攻撃を耐え抜き上杉は引いた。この三人と貴殿ら 武田軍二万全てで手にした勝ち戦!この三人と共に勝鬨をあげようぞ!」 「「「えいっ!えいっ!応!えい!えい!応!」」」 八幡原に響く武田の勝鬨 生き残った武田軍は堂々とした行軍でこの地を去った。 信玄と政虎 龍虎相立ち 異形の軍師と稀代の軍神が智謀を巡らせた激戦はこうして幕を閉じたのだ。 完
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