79人が本棚に入れています
本棚に追加
長政の主命はこうだ。
「良いか太兵衛 絶対に自分からは飲むな! 市松の事だどーせ飲んでおる。奴の誘いに乗って飲まされるとろくな事が無い。幾ら挑発されても断り我らが大人の対応を見せるのじゃ」
ではなぜそんな仕事に酒好きの自分を選んだのかと問うと
「他の奴らでは強引に飲ませれ潰される。さすればまた奴が調子に乗るに決まっておる!黒田家随一の剛の者のお前なら万が一飲まされても大丈夫だろう。お前しかおらん!」
太兵衛にとってはいい迷惑であるがこれも主命 渋々任務に着くこととなった。
「しかし殿も酷な事を儂に命じよるわい。伏見の酒は真に美味く儂なら水の如く飲めるのに 目の前でガバガバ飲むのをただ黙って見てろとは...」
太兵衛は以前飲んだ酒の味を思い出し思わず舌なめずりをする。
これは太兵衛が酒を目の前にした時の悪癖で蟒蛇 フカと呼ばれる由縁である。
「太兵衛殿っ!」
そんな独り言にも目を付けてくる。
「わかったわい!はぁ...」
大きなため息を着きながら二人は伏見 福島正則屋敷にたどり着く。
「おぉ何と...」
太兵衛達はその堂々たる門構えに驚く。主君と子供の喧嘩をしでかす男だが仮にも24万石の大大名にして太閤秀吉子飼の重臣の館に恥じない作りである。
門番に要件を伝えると即座に通され正則の待つ部屋まで続く廊下を歩きながら庭を見るとそれらも実に見事。
先代黒田官兵衛の茶の湯を近くで見てきた太兵衛 茶の湯は好まぬがモノの良し悪しの目利きはできる。
詳しくは無いが正則の屋敷は隅々まで税の凝らしら素晴らしい屋敷であるのはわかった。
「がーーーっはははははは!!!!!」
荘厳な庭園を眺めていると目的の部屋から何とも下品な笑い声。
襖の向こうからは何やら楽しげな音と笑い声 そして強烈な酒の匂いが鼻につく。
「黒田家中 母里 但馬守殿をお見えになられました。」
中の騒ぎに負けぬように案内役が声を張り上げる。
「おうっ!通せ!!!!」
その十倍は大きい雷のごとき返答。
太兵衛が襖を潜るとそこには信じられない光景が広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!