「酒豪」

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「待っておったぞ但馬守!まぁ座れ!!」 上座に座る既に泥酔している男 これが福島正則だ。 かつての信長公を真似た乱雑な茶筅髷 ガッチリとした広い顎にかっと見開かれた目 完全に酒焼けの赤ら顔 猛牛の異名を持つ正則だったが今の状態は張り子の赤べこと瓜二つ。 ただ太兵衛は正則がこうなっている事はある程度予想は出来ていたが問題はこの部屋だ。 数人いる福島家中の物らも既に酒で上機嫌 そこら中に空になった徳利や瓶が転がり褌一丁の輩までいる。 これは親代わりの秀吉の影響か正室 側室はちゃんといるのにどこから呼んだか着物の乱れた遊女まで居るではないか。 淫靡な装いで琴や三味線を弾くもの 既に乳房をさらけ出し酌をしている者までいる始末。 まるで宴会 仮にも大大名黒田家の名代が訪ねてくるのだ。 余りにも無礼 この時点で太兵衛は来たことを後悔したが頭に長政の顔が浮かび苦虫を噛み潰して着座し書状を読み上げる。 「此度は~で〇〇〇×××であり~なんたらかんたら」 最早ヤケ糞で書状を読み上げる太兵衛に数人の遊女が擦り寄り茶化してくるが無我の境地で無視しさっさと終わらせようとしたがそれは思わぬ形で叶う事になる。 ぶっ!!! 正則がデカい屁をこきそれに福島家中の物が大笑い。それに機嫌を良くした正則が太兵衛の書状をひったくる。 「そんな堅苦しい挨拶は抜きじゃ!それより但馬守 いや太兵衛と申したか 早く持参した兜を見せてくれ!」 まるで子犬を貰いに来た童のように足をバタバタさせ待ちきれぬと言った顔で催促する。 もう馬鹿馬鹿しくなってきた。 「では我が主 長政様からお預かりした黒漆塗大水牛脇立桃形兜ご覧に入れましょう」 控えの物に声をかけ持ってこさせた鎧櫃から兜を取り出し組み立て始める。 その様子を食い入るように見つめる正則。勿論その手には太閤検地で廃止された巨大な升になみなみと注がれた酒を握り締めている。
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