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「真にありがたきお言葉で有りますが主命で飲まずに戻れとキツく云われておりますれば...何卒御容赦を」
本当は飲みたくてしょうがないが先代から忠誠を誓う黒田家の名には背けず鉄の心で断る太兵衛。
しかし正則の絡み酒はこんな程度では済まされない。
「その主君は何処にいる?ここは儂の屋敷で儂の酒じゃ!何も遠慮致すな!バレるのが嫌なら泊まって行け!なら良いだろう?」
「どうか御容赦を...」
頑なな太兵衛の態度に白ける福島家中。
正則が呆れつつもニヤけた顔で挑発して来る。
「まっ、そこまで言うなら無理強いはせぬ。やはり優男の家臣は優男になるのだな。奴にはあまーい菓子や気取った茶がお似合いのひ弱な女子の様なやつじゃからのぉ!ガハハハハハ!!!!!」
「なにぃ...」
太兵衛の蛇づらに青筋が一本走る。
「太兵衛殿は黒田家では珍しい酒豪だと伺ったが所詮は黒田家内の話!お猪口1杯程で酔うてしまうのではないか?」
ビシッ!
今度は二本同時に青筋が浮き出る。
「ほれ これなら大丈夫かのぅ?酔うて吐かれても困るかのぅ」
そう言ってお猪口をひっくり返し器の凹みに酒を数滴垂らし差し出してくる。もう家来衆など腹を抱えて笑っている。
「見事な飲みっぷりを見せてくれたなら何でも褒美をやろうと思ったが無理強いは出来ぬな...代わりにどちらが多く菓子を食えるか勝負するか?それなら儂に勝ち目は無いのう。何しろひ弱な優男松寿丸とは違ってこちらは剛の者だからのう...」
ブツン!
太兵衛の中で何かがちぎれる音がした。幾ら自分が挑発されようとも耐え忍ぶつもりでいたが主君をここまでコケにされて黙っていては武士の名が廃る。
血走った目で突如立ち上がり 正則の持っていた特大升を奪い取るとその大口の幅いっぱいに酒を喉に流し込む。
太閤検地の升3個分の酒をあっという間に飲み干し遊女の持つ徳利をぶんどり直接口をつけどくどくと飲み干し、飲んだ端から部屋の隅に投げ捨てる。
げぇっ!
下品な振る舞いには下品でやり返す。わざと特大のゲップをかまし酔の回った目で正則を睨みつける。
「褒美の件 お忘れなきように!」
本番はこれからと諸肌脱ぎとなり升を握り締める太兵衛。生涯最初で最後の命令違反が始まる。
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