「酒豪」

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「こちらこそ見苦しき様をお見せしました。御容赦を...」 「いや!見事!誠にあっぱれな飲みっぷり!この正則感服したぞ!ガハハハハハ!」 この福島正則と言う男 横柄で子供じみた男だが裏を返せば無邪気で一度気に入った者をトコトン愛することの出来る愛すべき男なのだ。 だから家来とざっくばらんに飲める。他家の家来を手放しで褒め称えることの出来る稀有な武将なのだ。 「ところで太兵衛殿 貴殿このまま戻れば主命に反したと叱責を受けるのでは?」 「致しがた御座らぬ。」 「しかし一口飲んでも一瓶飲んでも飲んだ事には変わらない。ならばどうじゃ!このまま儂と朝まで飲まぬか?土産に日本号を呑みとったのじゃそれで放免されよう!」 「それに改易されたら我が元に来い!貴殿を気に入ったぞ!」 「真に恐悦至極なお言葉ですが儂の仕えるのは今世も来世もその次も黒田家となっておりますれば。」 「左様か...ますます気に入った!」 「そのお詫びとしては何ですが福島殿が気が済むまで飲み明かしましょうぞ!!」 「そうかそうか!よーし飲むぞー!!儂にも瓶を持て!肴を寄越せぇ!」 その後この二人は身分の差も家の境界も超え肩を組み飲み明かした。 この日伏見 福島正則屋敷の酒は底を尽きたという。 「う~む頭が痛い」 一口で酩酊した黒田侍が痛む頭を抑えながら辺りを見回すとまたも異常な光景。 あの蟒蛇 太兵衛と張飛の生まれ変わりのような酒豪 福島正則が酩酊し全裸で大の字に寝ているし そんな太兵衛は国宝日本号を握り締めている。 自分が寝ている間に何が起きたのか想像も出来ないがとてつもなく恐ろしい事が起きていたのだろう。 その深淵にはあえて触れずもう一度寝る事にした。 結局その2人が屋敷を出たのはその日の夕方。黒田屋敷で予想通り叱責を受けだが日本号と主君に対する忠義の心で無罪放免となり太兵衛はまた祝いの迎え酒を煽る。 その後あの二つの兜はどうなったかと言うと福島正則は水牛兜を大層気に入り 天下分け目の一戦 関ヶ原の戦いの際に着用し正則の大水牛を世に知らしめた。 長政も一ノ谷兜を愛用し自らの肖像画もあの兜姿を描かせ 後に福岡藩藩祖となると一ノ谷兜を一族当主の兜とし代々写しが作られるようになった。 両家を代表する宝のやり取りの裏には酒飲みによる 酒飲みのための 酒飲みによる駆け引きと友情があったことは歴史書には記されていない。 完
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