「鏖殺」

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グサッ! まずは泣き叫ぶ幼子の喉を槍で貫く。成実の見事な槍さばきは幼子に痛みを感じさせる間も与えず命を奪った。それが成実のせめてもの優しさであった。 愛する孫が物言わぬ骸に変わり 孫だった肉塊にすがりつきながら老婆が喚く。 「鬼じゃ!伊達の殿様は鬼じゃあ!!血の通うとらん畜生じゃあ!!」 壊れた蛇口の様に政宗への呪詛を吐く老婆の心の臓を槍で貫く! 老婆も一瞬で息切れ孫に折り重なるようにして肉塊になった。 「違う...鬼ではない...殿は龍 天下を手にする独眼竜じゃ...」 それだけを言い 二つの骸に手を合わせ再び槍を取り狩りを続ける成実。 それから数刻 小手森城は朱に染まった。 政宗の宣言通り動く物は老若男女 犬畜生問わず皆殺し 動いているのは伊達軍のみと言う惨状であった。 成実が帰陣しまず向かったのは政宗の元。 陣幕の内で待つ政宗に平伏し事の首尾を伝える。 「うむ...ご苦労であった...下がれ」 政宗にも疲労の色が見える。 政宗も城内に進み己の刀で民を切り 分厚い鉄板で作られた雪ノ下 五枚胴具足にはベッタリと返り血を浴びている。 「殿...」 「なんじゃ...」 「ここまでして殿は天下を夢見るのですか?」 「あぁ...」 「ならば誓え!この骸の群れに!貴様らの死を無駄にせぬ為に片時も休まず天へと翔る龍となると誓えるか?!」 総面の奥の瞳が涙に濡れ 強い眼差しで政宗を睨みつける。 「無礼だぞ成実!殿になんて口をきく!」 旧知の仲とはいえ侍が主君に無礼な口を聞くのはご法度。 小十郎が成実を諌めようとするのを政宗が止める。 「誓う!儂は誓うぞ!この戦で散った命の全てに誓い儂は天下を獲る!儂に付いてこれるか成実ぇ!」 「ははぁ!!!」 この日より伊達家は奥州全土を相手取り戦の日々を送るが成実の槍が鈍る事は無かった。 成実と政宗 この若き主従はこの小手森城から人である事を捨て 非情で強か されど情を胸に秘めた本物の戦国の男になったのだ。 伊達 藤五郎 成実 齢17 余りにも辛すぎる「大人」への初陣であった。 完
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