最終章 復讐

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最終章 復讐

梅雨入りが遅れているらしい。 六月の空は晴天が続いていた。 「あ~…、いい天気だな…」 俺はのん気にそう思ってしまうけど、農業にとっては死活問題であるらしい。 少し小高くなった場所にあるイッセーの家。 眼下に広がる農場。取り囲む桑の木。 その向こうの山々をぼんやりと眺める。 第三農場からは、何かの機械音や大声で指示を出す声が聞こえてくる。 姿までは遠すぎて見えない。 黒の軽自動車が、ちょこんと置かれているのだけが見える。 「…第三農場に、顔出してから行く?」 名残惜しそうな顔でもしていただろうか。 イッセーが、背中からそう声をかけてくる。 「いいよ。大丈夫」 早口でさっと答える。 そして、爽やかな空に見とれるような顔で、イッセーに口をはさむ隙を与えずペラペラとしゃべりまくる。 「良太に餞別にゲームもらったんだ。東京まで長いから電車の中でやろ。あ、そうだ!なんとこれ愛ちゃんから!私の貴重なお菓子だからねってちょっと涙ぐんでんの!しまった、あの時なら押し倒せたのに!」 それから、スッと振り返る。 失笑を浮かべるイッセーに、丁寧に頭を下げる。 「イッセー。お世話になりました。自転車、サンキュ。…生活費、あんなんじゃ全然足りなかったと思うけど、悪いな」 「ははは。いいんだよ。そんなん気にしないで、もっといてくれても良かったのに」 俺はちょっとうつむきがちに、風に吹かれながら笑った。 「うん…」 母ちゃんとの約束の日より、一週間ほど早く東京に帰ることになった。 一番正直な理由は、生活費が苦しくなってきたからだ。 東京で一刻も早く、失業保険の手続きと就職活動をしないと。 それからあとは…。 (先輩…) (野村先輩…) さっさと村を出ないと、アイツがまた寂しそうな顔で…。 (俺の家に来ませんか…?) そんなことを言いに来そうだったから。 「ちょ…先輩!どこ行くんですか…!?」 荷物などほとんどなかった。 数着の着替えとスマホ、充電器、ゲーム。 コーヒーは、置いていこう。 あればきっと歩夢が飲むだろうから。 「ん…。とりあえず、今夜はイッセーの家に…」 涙の乾いた顔をゴシゴシとこすりながら答える。
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