2 蜂とレショパニーズ

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2 蜂とレショパニーズ

 リノリウムタイルの廊下に革靴の音を響かせながら考える。セキュリティの甘い病院は、こちらとしてはありがたいが、心配になる。  面会の受付手続きを特にすることもなく、俺は入院患者のいる病棟にしれっと入ることができた。エレベーターに乗って十二階のボタンを押し、目当ての病室を目指す。  エレベーターホールで、サングラスをかけた体格の良い男や、胸のはだけたシャツを着たチンピラ風情が待ち伏せをしていた、なんてことはなかった。高校生くらいの男子がスマートフォンをいじりながら前を見ないで歩いて来て、俺にぶつかりそうになっただけだ。  いかにもボディガードです、という格好をせずに紛れ込んでいるのだろうか、と警戒しながら進む。  警備員や患者、見舞客、看護師たちに注意を払いながら病室を目指す。急に襲われても対処できるよう、シミレーションをしながら歩を進めた。  だが、あっさりと、角部屋の病室の前に到着してしまった。護衛の姿はない。中に覗き、一番右奥のベッドを確認する。  そこには、キレイに畳まれた布団とシワ一つないシーツと枕だけがあった。  俺の仕事相手は、いない。  病室の中に入り、奥のベッドの前で呆然と立ち尽くす。     
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