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「あ、あの!龍暉さん!」
「どうしたんだい?」
「あの……これは一体……」
あれから3日が過ぎた頃、僕は何故か龍暉さんと
登山をしている。
「能力を制すにはまずは精神を鍛えるところから!この先に自分のオススメ滝行スポットがあるんだよ!」
「た、滝行!?」
この3日間、ずっとこの調子だ。
正直こんな修行みたいなことをして、自分の狼化を
コントロールできるようになるとは思えない。
(ただ、修行さえ頑張れば…美味しいご飯が食べられるからな)
今までの暮らしを考えると、この暮らしの方が何十倍も良い。
「あの、修行もいいですが……仕事の方のお手伝いとかは!?」
って昨日縁さんに聞いてみたけど
「特殊能力の困り事専門だと、そんなに頻繁に仕事は来ないんだよ。だから普段は空いた時間で本当に探偵業もやってんのー」
「じゃあ、そっちの仕事の手伝いは?」
「探偵業をやってるのは基本は俺だけ。助っ人頼むこともあるけど、それよりワンコくんは能力を使えるようになるのが先だよー」
って、断られたしなぁ。
(てゆーか、ワンコじゃなくて狼なんだけど……)
SAR探偵事務所は、表向きは普通の探偵事務所。
裏では特殊能力犯罪専門の捜査機関として
普通の警察では対応出来ない犯罪を対応しているらしい。
事務所のメンバーは僕を含めてまだ9人。
そしてみんな、何かしらの能力を持っているらしい。
ただ能力については、お互いあまり語らない。
能力のことが敵に知られると戦闘では不利になるからだ。
その為、仲間内でも何となくしか把握してないらしい。
今ずっと何も知らずに生きてきたけど
どうやら世の中は色々とごちゃごちゃしていて
面倒臭いらしい。
……僕には難しいことは分からないけど。
「よし!今日はこの位にして、そろそろ戻るか」
「は、はい!」
寒さにガクガク震えながら、僕は返事をした。
滝行後の寒さを全く感じさせない龍暉さんは
それだけで凄い人だと分かる。
「でも、分からないなぁ」
「何が?」
「何であんな人の多いオークション会場の中で、僕が能力者だってわかったんですか?」
「あー、そのこと?」
そう、あの口振りは
僕が狼化する前から僕が能力者と分かっていたような口振りだった。
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