きみのとなり

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「じゃ、おやすみ」  律儀に挨拶をしてから、抱えていたリュックを枕にして目を閉じた。  眉にかかる前髪が弧を描き、それまでとは異なる柔らかい雰囲気を醸し出す。  いつものキリリとした大津くんとは違って、寝顔は妙にあどけなく、私の胸をさらにきゅっと締め付けた。  もやもやとした熱気を冷ましたくなって、さっき大津くんからもらったガムを口に放り込んだ。きついミントのガム。私には少しからかったけど、大津くんはいつもこれで眠気と戦ってるんだろうな。また一つ、大津くんのことを知った。  時計を見る。到着予定までまだあと三十分もある。  大津くん寝ちゃったし、やっぱり本持ってくればよかったかな。  そう思っていた時、バスが大きく揺れた。  すっかり寝入っている大津くんは力なくなだれ落ち、私の肩の上にこつりと頭を乗せた。  うわあああ。思わず、声が出そうになるのを必死で堪える。これじゃ、心臓がいくつあっても足りない。私は今日、ちゃんと遠足を終えられるのかな。  私の心配をよそに、大津くんは相変わらず小さな寝息を立てている。右の耳に囁くようなスー、スーと言う心地よいリズムは、私から正常な呼吸を奪う。   座席の隙間からなんか様子がおかしいと気がついたのか、後ろの席に座る子たちが声を潜めて何か言っているのが聞こえる。私は大津くんを肩に乗せたまま、聞き耳を立てる。右から左へ、この状況がバスの中で伝播しているのを肌で感じたけど、大津くんを起こすのもかわいそうだったから、気づかないふりで窓の外を眺めていた。
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