バツをキミに

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明地から出た「キス」という言葉に、円は自分の唇を指で触れる。 ――ここに本当にキスされた……!? 「お前の原稿に、バツを書くたびに、キスしてやろうかと思ってたけどな」 「なんで……?」 嘘か本当か分からないセリフに、円の頬は赤くなるばかりだ。 明地から受けるのは叱責ばかりで、好意を感じたことなんか一度もなかったのに。 「分かってなかったのか。やっぱり罰だな」 明地は、円の顎を引き寄せ、そっと唇を合わせる。 少し乾いた唇は、それでもふっくら柔らかかった。明地の穏やかな表情と相まって、心臓から爪先まで体中の体温が上がっていく。 「チョコもくれないし。罰が欲しかった?」 唇と同じく柔らかな声音に、不穏な言葉が乗る。 「……持って来てます。ちゃんと……ちゃんと渡したかったから」 「じゃあ、早くくれよ。待ちかねた」 見るたびに焦がれていた長い指が、頬を撫で、円に焦がれているんだと伝えてくる。夢じゃないかと思った。 見透かすように、今度は耳をくすぐられる。思わせぶりな視線に、夢じゃないと断言された。 ノートの下に隠していた、赤い箱を取り出す。明地愛用のペンのインクに似た、ワインレッドに近い落ち着いた赤色。 「……ずっと憧れてました。尊敬してて」 差し出しても、受け取ってくれない。     
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