災い

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人柱!? ざあっと血が逆流するような感覚が佐助の全身を駆け抜けた。婆様の(せがれ)の弥吉さんを殺したあれのことか!? おしのを見れば震えながら、しゃくりあげている。 「落ち着いてくんろ。いったいどういうことじゃ?」 母親がつっかえつっかえ話す。 領主様が造っている新しい城の石垣が、何度やっても石が崩れてうまくいかぬところがある。崩れる度に何人も怪我人が出るので、祟りじゃなどと噂が立ち始めた。工事も遅れていくことから、業を煮やした石垣の普請を請け負っている武家から角ごとに人柱を埋めるようお達しが出た。この里からも一人出さねばならず、誰を差し出すことになるのかと皆怖じ怯えていた。 「どうせ目が悪うて役に立たんおしのにすると、ゆうべ組頭(くみがしら)の寄合で庄屋様が決めなさったそうで……騒ぎになると面倒じゃから朝早うに連れて行く算段を里の若衆に伝えたそうなんじゃ。そん中の一人がおしのの兄の幼馴染じゃったもんで、家族でゆっくり別れも言い合えんのは可哀そうじゃと夜中にこっそり伝えに来てくれたんじゃ。 おしのを人柱なんぞにさせられん!じゃから、逃げてきた。佐助どん、どうかおしのを山に匿ってやってくれんか、助けてやってくれんか」 まだ人はそんな愚かなことを繰り返しているのか。ぐつぐつと佐助の中で怒りが湧きおこる。 「話は分かった。人柱なんてとんでもないことじゃ。だいたい人柱を立てたところで普請がうまくいくわけではなかろ。じゃが、おしのを隠したところでおらんことはすぐにばれるじゃろうし、一時凌ぎにしかならん。逃がしたおしののおっ母や、話を漏らした幼馴染がただで済むとも思えん」 悪ければ代わりに連れていかれるんではないか? その時すぐわきの木立から三日月がオンと佐助を呼んだ。 『佐助殿、里の方から人の気配が近づいてくる。何人もおる』 もう、人が動き出していたか。目の悪いおしのと膝が悪い母親ではここまで来るのに随分時間が掛かってしまったのかもしれない。 佐助は二人を木立の奥へ引き込んだ。
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