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化け物
ズサッ ドスッ ドスッ
早くいつもの様に声を上げて泣いて見せないと。
分かっているのに鼻から溢れた血が喉に流れ込んで引っ掛かり、息をするのが精一杯で上手く声が出せない。
痛めつけた実感がないと彼らがむきになったり興奮し過ぎて、もっとこの行為は激しくなると知っている。
「化け物!」
「くたばれ!」
地べたに転がり腹を護って身を丸める背中や顔を、木の枝でぶたれ、容赦なく蹴り上げられる。
左目が良く見えないのは、瞼が腫れあがっているからなのか、切れた額から流れた血が視界を覆っているからなのか、もはや判断がつかない。それ以前に意識が朦朧として痛みすらよく分からなくなってきた。
死ぬかな……。
おら、今日、死ぬのかな。
木の実や茸を採るうちに、うっかり里の近くまで下りてきてしまったのがいけなかった。
出会ってしまったのが大人ならまだよかったのだ。皆、おらのことをまるで見えとらんようにすっと避けて離れていくだけだから。
子供は、いかん。いつも、化け物退治だと言っておらをしたたかに打ちのめす。もっともそれを里の大人が見ても、誰も止めたりせんのだが。
確かにおらの見てくれは気味が悪いかもしれんが、べつに傍に寄ったって染ったりせんよ。だってずっと一緒にいる婆様は大丈夫なんだから。
里の人をとって喰ったりもせんし、祟ったりもせんのに。
急に空っぽに近い腹から何かがこみ上げ、堪えようと思ったが間に合わず、こぽっと生暖かくどろりとしたものが口から溢れ出た。
取り囲んでいた少年たちがどよめく。
薄っすら目を開くと小さな赤黒い水溜まりが見え、しばらくしてやっと自分が血を吐いたのだと分かった。
その時。
ガサガサッと木々をかき分けるような音がしたと思ったら、誰かが「ひぁ、狼じゃあ!」と叫んだ。
途端に取り囲んでいた少年たちは悲鳴を上げ、木の枝を放り捨て、散り散りになって逃げだした。
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