災い

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「もう追手が来とる。取り敢えず今は時を稼がんといかん。ええか、今からおらの仲間を呼ぶが大きな声をあげんでくれ」 二人が青褪めながら頷いたのを確認し、三日月を呼んだ。傍の茂みからぬっと姿を現した狼に、二人は目を見開き口に手を当て更に震え上がる。嵬仁丸が山に人を入れぬよう常々狼を使って脅してきたせいで、里の者は一様に狼を恐れている。 「大丈夫じゃ。この三日月はおらの仲間。お前さんらを襲ったりせん。ほら」 佐助は自分の腕を三日月の口に押し当てたが、三日月はそれに頬を擦り寄せて見せた。 「三日月、二人をおらの小屋の方へ案内してくれ。もしおらがそっちへ行く前に里のもんが近づく気配があったら近くの洞穴へ連れて行ってくれ」 『佐助殿は』 「このまま皆で隠れて、山狩りでもされたらことだ。おらは、里のもんと話おうてみる。人柱など意味のないことも訴えてみる。さあ、行け」 『ひとりで大丈夫か』 「いきなりとって食ったりせんじゃろ。何かあればいつものように指笛で知らせる。おしのは目が悪く、おっ母は足が悪い。道を選んでくれろ。では頼んだぞ」 三日月がオンと返事をし、二人についてくるようにと首をくいと曲げ歩き始める。おしのと母親が心配そうにこちらを何度も振り返るのを大丈夫だと頷いて見せ背中を押した。 参道の近くに戻ると、その登り口に続く道に松明(たいまつ)や棍棒、縄を持った男たちが見えた。5人、いや6人いる。 「やっぱり山へ逃げたんじゃ。おしのの杖の跡が参道の方へ続いとる」 そうか、杖の跡を辿ってきているなら参道の途中でそれが逸れ、木立に入っていったところもばれてしまう。取り敢えず近場の杖の跡を足で消しながら、佐助は考えを巡らせる。 三日月が選んだ山道が途中で杖の跡を途絶えさせていればよいのだが。だが、そうだとしてもそれも僅かな時間稼ぎににしかならない。大勢で探せばきっとすぐに見つかるし、佐助の小屋だっていつかは見つけられる。
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