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ガサ。ポキッ、ポキッ
落葉や小枝を踏みながら何かがこちらへゆっくりと近づいてくる。
狼?
いつも山奥で暮らしている佐助は何度だって狼を見たことがある。里の人はどうやら狼を酷く恐れているようだが、同じ山の住人と認められているのか、今まで佐助が彼らに襲われたことは無い。
おらの血の匂いに誘われたか。
だが、小枝を踏みしめる音の大きさや歩幅から、もっと大きな生き物のような気がする。それに狼は大抵群れで行動する。今、感じている気配は複数ではない。
熊?
だとしたら、もう助からない。
熊は丸っこい見た目に似合わず動きは素早く、木登りも上手い。そして殆どの場合、振り下ろした掌の最初の一撃で獲物を仕留めてしまう。
一撃で殺られるなら、生きたまんま喰われるより苦しまずに済むな。
それに熊の腹の中に納まるのなら、里の子に殴り殺されるよりはずっとましか。
もうしばらくしたら冬ごもりする熊の蓄えになって、子熊を産む糧になるだろう。おらの見た目はちいと変わってるが多分味はそう変わらんよ。痩せっぽっちであんまり腹の足しにならんのが申し訳ないけど。
ふふ、もしかしたらおらは子熊に生まれ変わるのか?それもいいかもしれない。
母熊に抱かれてぬくぬくと眠る子熊の自分を想像して佐助は薄っすら笑った。
気が付けば足音は止まっていて、すぐ傍に獣の気配がある。
今、殺られるか、もう来るかと目をつぶったまま覚悟を決めているのに、いつまでたっても一撃は振り下ろされない。
もしかすると里の子が慌てて、鹿かカモシカを見間違えたのか?
佐助は倒れたまま、腫れて重い瞼を持ち上げた。
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