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「佐助はメジロを閉じ込めたかったのではなく、通じ合えるものが欲しかったのだろう?」
なんと可哀想な事をしたのだと失敗を責めるのではなく、あの時の自分の気持ちに嵬仁丸が寄り添ってくれたことに佐助は胸がきゅっとなってなぜか涙が出そうになった。
そうなのだ。メジロを可愛がって世話をしたら、いつか懐いて自分の手の上に乗ったり、そのうち籠から出しても口笛を吹いたら自分の方へ飛んできてくれるようになるのではと幼い佐助は夢見ていたのだ。
「ここで山の獣たちと触れ合うことは、お前の慰めになるか?」
「え?」
「きっとお前なら獣たちを傷付けたりはしまい。月見が原では佐助も同じ仲間だと獣たちに伝えておこう」
あの雛の一件から佐助は獣たちに無闇に近付くことを避けてきた。せいぜい口笛で鳥寄せをして集まって来た小鳥を眺めているだけだ。
でもこれから、ここに来たらもうちょっと仲良くなれるかも知れんの?
ああ……もしかして嵬仁丸様はおらの寂しさに気付いてくれたん?
佐助は自分の中にぽわっと温かいものが生まれたのを感じた。それなのに、また胸がきゅっとなる。
おかしいな。今まで胸が痛いと感じたのは、里の人達に心無い言葉を投げつけられ悲しい思いをしたようなときばかりだったのに。
優しく気遣われても、こんな風になるなんて。
今日は今まで知らなかった色々な感情に振り回されて心の動きが忙しい。人と関わるってこういうことなんかな?
傍らに立つ男を見上げながら、佐助はぼんやりそんなことを考えた。
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