出会い

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いつもにこやかに佐助を受け入れてくれる嵬仁丸だが、いくら口笛を吹いても会えぬ日もある。それは多分佐助の口笛が聞こえなかったのではなく、嵬仁丸の方で何か用があるのだ。 月見が原で会っている時にも、稀に「すまぬ、行かねばならぬ」と途中でどこかへ行ってしまうことがある。 「何しに行くん?」と何気なく口をついた佐助の言葉に、「呼ばれているのだ」とだけ答え「呼ばれるって誰に?里の人?」という次の疑問を佐助が口にする前に嵬仁丸は木立の中へ静かに消える。 嵬仁丸様って不思議がいっぱいあるよな。どこか謎めいていて周りに(かすみ)(もや)を纏っているような。 時々その不思議の霞を吹き飛ばして、しっかり輪郭が見たいという欲求が頭をもたげてくるが、それも含めて嵬仁丸なのだとしたらそれは自分の我儘だと口をつぐむ。 早く嵬仁丸に会いたいと逸る思いでやって来たのに会えなかったときは、やっぱり気分はしょぼんと(しぼ)む。 だけど、いつもおらが呼び出すたんびにわざわざ会いに来てくれ、話し相手になってくれるだけでありがたいと思わんと。嵬仁丸様に出会ってからおらは毎日が楽しゅうて仕方がないんじゃから。 それにここではほかにも友達がいる。 嵬仁丸に会えぬ時は月見が原で獣と遊び、それにも飽いたら神社へ行って木に登り、里の人たちの様子を眺めて過ごした。
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