神と鬼

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「確かに人に災いをもたらそうとする存在はある。それをなんと名付けるかはその時の人次第。今ならさしずめ鬼ということになるかもしれぬな」 鬼は本当にいる!? 「確かに婆様は人嫌いじゃけど、人に災いをもたらそうとなんかせんと思うよ。現に山に捨てられとったおらのことを拾って育ててくれたんじゃもん。おら、いっぺんも恐ろしい目にあわされたことなんかない。 だから……もし婆様が言う通り本当に婆様が鬼だとしても角が生えておっても、ちっとも怖くないし、おらが婆様を好きで大事に思う気持ちは変わらんよ。だけど、婆様が里の人を襲いにゆくというのなら……おらはやっぱり止めると思うけど……」 「何故だ?佐助は今まで里のものには散々な目に合わされてきたであろう」 「だからといっておらは里の人が恐ろしい目にあったり喰われてしまえばええとはあんまり思えんし…… だけど、鬼はなんで人に災いをもらたす?山の獣が獲物をしとめて食べねば生きていけぬように、鬼もそうせねば生きてゆけぬのなら……どうしたらいいか分からん…… 嵬仁丸様は鬼を見たことがあるん?本当に角が生えとるん?」 佐助の真剣な(まなこ)を、嵬仁丸の黄金色の瞳が静かに見つめ返す。 「鬼は……多くは人から生まれるものだ」 ぽそりと嵬仁丸が零した言葉に佐助は仰天した。 「人から生まれる!?赤ん坊の様に?」 「そうではない。人が業火に焼かれるような恨みや憎しみをもって最期を迎えたとき、その魂は()(かえ)されずにこの世に残ってしまう。それを鬼と呼んでも良いかも知れぬな」 「だから、人を襲うんか?恨みをはらすために災いをもたらそうとするんか?」 嵬仁丸は頷いた。 「だが、既に体は滅んでいるのだから、本当に人を喰ったり襲ったりできるわけではない。人にはその姿すら見えぬ。だが、鬼が人里に蔓延(はびこ)ると人々は不穏を感じ取り、不安や恐怖に()りつかれ、疑心が溢れて、里は荒れる。そうするとまた新たな諍いや争いの火種がおこり、新たな鬼が生まれてしまう」 「じゃあ鬼がどんどん増え続けてしまうでないか……その鬼は里を荒らしたら気が済んで消える?」 嵬仁丸は首を横に振る。
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