神と鬼

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「鬼になった時に抱いた恨みを晴らすことはできぬので、永遠に苦しみながら彷徨い続けるだけだ」 「そんな……可哀想じゃな……辛い目に会って死んだ上に、その後もずっと苦しみ続けるなんて……どうしたら人が鬼にならんように出来る?」 佐助は眉根を寄せて嵬仁丸を見上げる。 「婆様が自分の事を鬼と言うんは、なんでじゃろ?鬼になりそうなぐらい誰かを恨んどるちゅうこと?」 時折、婆様から感じる里の人達を嫌う、いや、もっと冷ややかな何か。 婆様はなんにもおらに言わんけれど、辛いことがあったんを腹の中に抱えとるん? 子供のおらには話せんような何かがあったんか? もしそうだとしたら…… 「婆様が鬼になったら可哀想じゃ……おらはどうしたらええ?どうしたら、婆様を鬼にせんですむ?」 嵬仁丸の腕に縋り不安気な声をあげる佐助の頭を撫でて嵬仁丸は言った。 「心配いらぬ。佐助が婆様の傍におれば、きっとそのような事はおこるまい」 「本当?傍におるだけでいいん?」 どこか腑に落ちないままだけれど、嵬仁丸が大きく頷く姿は、佐助に安堵の溜息をつかせる説得力があった。 「鬼がおるんなら……神様は?神様はいらさる?もしいらさるなら……婆様が鬼にならんですむように祈ったら願いを聞き入れてくれるじゃろか?」 「神か……さあ、どうであろうな。人々が言うような、計り知れぬ力を持ち望みをかなえてくれる神という存在は、私は感じたことはない」 「……そうなん……神様はいらさらんのか……あっ、でも!」 佐助は顔を上げ、瞳を輝かせた。 「おら、神様に会うたことあるかもしれん!とんでもなく綺麗で大きな狼みたいな獣の姿をしとるん……あ!嵬仁丸様ももしかしたら見たことあるんでない?」 「……なぜ、佐助はそれを神だと思うのだ?」 「ん……それは……おらが危ない目にあったときにいきなり現れて助けてくれたん。それに、見るからに普通の獣とは違うなんかがあったんよ」 木々が茂る暗い山の中にあっても燐光を放つように浮かび上がっていた気高く優美な姿。あれはやはりただの狼ではなかったと今になっても佐助は思うのだ。
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