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「ん……んー」
ギシギシと軋む体で寝返りを打って、佐助は自分がいつもの小屋の筵の上で寝ていることに気が付いた。
あれ?
おらはあの美しい獣に喰われたんではなかったのか?
それともあれは……夢?
だが両の手は触れたふさふさとした毛並みの感触をはっきり覚えているし、自分の体のいたるところに残る痣や傷、熱を持って腫れあがっている瞼と唇が、あれが現実だったと教えている。
だが、自分で小屋まで帰って来た記憶が無い。ここまで怪我をしているのなら山を登って来るのも一苦労だったろうに。
殴られるうちに気でも失って、夢を見て……?
混乱しているうちに、ガタガタと音を立て建付けの悪い戸が引かれ老婆が入って来た。そこで初めて、佐助はもう随分と陽が高いことに気が付いた。
「婆様!寝坊してごめん!今から水汲み行ってくるよ」
ちらと佐助を見やった老婆は首を振る。
「そんな怪我じゃ、きつかろ。今日はええ」
ぶっきらぼうな口の利き方だが、決して老婆が冷たい人ではないと佐助は知っている。
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