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「ねえ、婆様。おら夕べどうして帰って来た?どういうわけかさっぱり覚えとらんのよ。あ!おら背負子はどうした?沢山、茸やら木の実やら入っとったのに」
でも里の子達に遭遇してすぐに背負っていた籠はどこかへ行ってしまったことを思い出した。中身共々、無事なわけはないだろう。
がっかりして肩を落とすと、老婆が意外なことを言った。
「おまんが怪我して倒れとるのを通りがかりの人が見つけて、ここまで運んでくれたんじゃ。背負子も一緒にな」
え……信じられない。
「里の人が?」
「いんや、違う」
そうだろうな。里の人がそんなことしてくれる筈がない。じゃあ、誰が?
こんな鬱蒼と木々が生い茂り獣道しかないような山を通りがかる旅人など、滅多にいない。それに、どうやってここがおらの家だって分かったのだ?
だがそう言われてみれば、誰かに横抱きにされてゆらゆら揺れていたような感覚が体に残っている気がする。
「どんな人だった?まだ近くにいらさるならお礼を言わんと」
だがそこから老婆は口を噤み、何も話してはくれなくなった。
これもいつものことなので、佐助はその先の答えをさっさと諦めた。
老婆は自分が話すと決めたことしか口にしない。いくら佐助が聞きたいと強請ってもそれが揺らいだり変わることはない。
どなたか知らんが、お世話かけやした。おらを抱いてこんな山奥まで登って来るの大変だったじゃろ。しかも、こんな気味悪い上に血だらけになっとる小僧を。
佐助は心の内で礼を言った。奇特な方もおられるものだなぁと思いながら。
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