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佐助は人里から離れた山奥の掘っ立て小屋に、老婆と二人で暮らしている。
もうかれこれ6、7年ほど経つはずだが、最初の頃の記憶は幼すぎるので定かではない。
老婆に聞いたところで、返事は返ってこないし、他に聞くような知り合いもいない。
佐助は老婆の名前すら知らない。物心ついた頃に尋ねたが「婆でよい」としか返ってこなかったので、ずっと「婆様」と呼んでいる。
実の祖母ではないことは知っている。それは婆様が佐助のことを山の中で拾ったと言ったからだ。
そんなわけで佐助は自分がいくつなのかも知らない。
佐助がもっと幼い頃、婆様は山を下りて里へ行くのに佐助を一緒に連れて行った。
奥深い山の中に子供一人を置いてはいけなかったのだろう。
すっぽり頭を覆うように被せられた頬かむりは、佐助が光を眩しがり、陽にあたるとすぐに赤く肌が腫れてしまう性質のせいだと思っていたが、それだけではなかったことがじきにわかった。
山で婆様と鳥や獣ばかり見ていたから気付かなかったが、里の人を見る様になって佐助は自分が奇異な見てくれなのだと知った。
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